PARC TOP政策提言TPPでは生きられない!STOP TPP アクション

プレスリリース
日本政府のTPP交渉にかかる出張旅費、
9億円を超える
―多額の税金が使われていながら、
国民には中身が知らされない「秘密交渉」でいいの!?―

このたびNPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)は、日本がTPP交渉に参加して以降の政府交渉官の出張旅費・会議費について、関係する4省庁に情報開示請求を行いました。その結果、2013年3月〜2015年2月末までの2年間で、9億円を超えていることがわかりました。長期化する交渉が、経費を増加させていることがデータから読み取れます。この経費の財源は私たちの税金であるわけですが、9億を超す額であるにもかかわらず、交渉内容が一貫して秘密であることは国民からすれば納得いくものではありません。米国議会ではTPA(貿易促進権限)法案の動きも流動的で交渉が漂流する可能性も指摘される中で、この「コスト」は、果たして日本にとって本当にメリットとなるのか、「ムダ金」に終わるのか、私たちは改めて政府に交渉内容の十分な説明を求めます。

■はじめに―調査の概要

◆情報開示請求の概要◆
★対象期間:2013年3月〜2015年2月末(2年間)
★対象省庁:内閣官房、財務省、農水省、経済産業省、外務省の5省庁
※外務省についてはTPP交渉と、日米二国間協議交渉の2つを担当しているため、2件の情報開示請求を行った。
★請求内容:@TPP交渉の閣僚会合や首席交渉官会合、中間会合などのため出張した職員の旅費
※出張旅費には、航空券代、宿泊費、国内交通費、変更に伴うキャンセル料が含まれる。
A国内での会議費(会場費、水代など)
★作業はSTOP TPP!!市民アクション(http://stoptppaction.blogspot.jp/)の協力を得て実施した。

TPP交渉の分野は多岐にわたるため、日本政府は内閣官房内に「TPP政府対策本部」を設置し、関係する各省庁からの交渉官を統括している。ただ交渉会合への参加経費については、各省庁からの支出となるため、「内閣官房」「農林水産省」「経済産業省」「財務省」「外務省」の主要4省庁への情報開示請求を行った。開示請求を行ったのは2015年3月6日。どの省庁からも1か月の開示延長がなされ、最終的な開示がなされたのは5月中旬〜下旬であった。
情報開示請求の内容は、@TPP交渉の閣僚会合や首席交渉官会合、中間会合などのため出張した職員の旅費、A国内での会議費など(会場費、水代など)とした。対象期間は2013年3月〜2015年2月末の2年間である。 開示の結果、そのほとんどが出張旅費であった。5省庁からの領収書は1570件にも及んだが、そのすべてを入力・集計した。今回調べた省庁の他にも国土交通省や金融庁なども少人数ながらTPP交渉に職員を派遣している。

■外務省、内閣官房、農水省が2億を超える。1回200万円以上の出張旅費も

情報開示の結果、4省庁のTPP交渉に関する出張旅費の合計は9億221万2008円であることがわかった。同様の調査は、2014年9月に東京新聞が行なっており、その際にわかった2013年度の出張旅費の合計金額は3億5000万円であった(註1)。その時点から実に2.6倍にも膨れ上がったことになる。
 TPP交渉の分野は多岐にわたり、また交渉相手国も11か国となるため、担当交渉官の人数も他のFTA・EPAよりも多い。他国では交渉官の人数は平均的に30-50名といわれるが、日本の場合は首席交渉官が率いる「対外交渉担当」約70人と、国内調整総括官が率いる「国内対策調整担当」約30人の計100名となる。2年前の2013年7月、12か国中最後に交渉に参加した日本は、その「遅れ」を取り戻すために多数の交渉官を一気に投入させたことも、この2年で出張経費が膨らんだ要因の一つだと言える。日本が初めてTPP交渉に参加した2013年7月には対外交渉官のほぼ全員である72名の交渉担当者が会合場所であるマレーシア・コタキナバルに出張している。
 省庁別に見ると、外務省、内閣官房、農水省の3省庁はいずれも2億円を超える出張旅費となった。派遣した人員の延べ人数も、外務省394人、農水省330人、内閣官房287人の順になっている。一方、1回あたりの出張旅費の平均額で比べてみると、外務省・日米協議が778,481円と圧倒的に高く、次いで内閣官房の710,742円であった。逆に財務省は386,351円と最も低かった。
同じ行先であっても、担当省庁や担当者のポストによって金額は大きく異なる。例えば外務省のTPP交渉担当者は2013年7月に合計9名が同時にキャンベラに出張しているが、最も安い旅費は事務官の約40万円であり、次いで課長クラスの約70万円、最も高かったのは室長クラスの約130万円というようにかなりの開きがある。 1回の旅費(1人分)が200万円を超えたのは8件(図4参照)。交渉地から別の場所への移動も含むものもあるが、200万円を超える出張旅費は、国民の生活感覚からすれば途方もなく高いと感じられる。

■考察―長引く交渉で、かさむ出張費

 TPP交渉の特徴は、「交渉期間の長さ」である。2006年、4カ国でスタートし、2010年に米国が加わり、その後各国が参加、最後に日本が参加したのが2013年7月である。
 米国は2000年以降、WTOのような世界中の国が入る巨大な貿易協定から、二国間FTAやNAFTAなどの少数国による地域内の自由貿易協定へと方針を変えてきた。これらのFTA/EPAと交渉期間を比較しても、米国にとってのTPP交渉の長さは突出している(図6参照)。
 一方、日本にとってはどうだろうか。日本はTPP交渉に参加した最後の国であり、またEUとの自由貿易協定やRCEPなどのメガFTAもTPPと並行して進んでいるので、一概にその長さを比較はできない。しかし少なくとも、過去の二国間FTAと比べてみれば、交渉期間が長いということは明らかである(図7参照)。TPP交渉の「交渉分野の広さ=担当省庁の多さ」や「交渉が長引くこと=出張旅費も当然膨らむこと」が見えてくる。  政府がTPP交渉に使ってきた出張旅費などの経費の財源は、当然私たち国民の税金である。
 どのような貿易交渉についても、必要な経費が出ていくことは当然であり、今回の調査はその正否を問うものではない。しかし、TPP交渉は極端な秘密主義のもと交渉が進められている。4月以降、甘利大臣による「妥結は近い」との発言がなされ、また米国におけるTPA法案が可決すれば即座に妥結、とさえ報じられているにもかかわらず、交渉内容は一貫して秘密であり私たち国民には十分に知らされていない。それどころか、国会議員ですら交渉テキストが閲覧できていない。5月初旬に西村内閣官房副大臣が「日本の国会議員にもテキストを見せるようする」と発言し、数日後に撤回された件も、日本政府の姿勢が問われるところである。実際、米国議員は制度の違いはあれ3年前から条件付きの閲覧が許されており、また西村発言の後、日本と同様の議会制度を持つオーストラリアでも条件付きの国会議員への閲覧が可能となった。こうした動きと比較しても、日本政府の情報開示・説明責任は不十分だといわざるを得ない。
TPPに関する情報がないとの不満・懸念は全国各地で広がっており、交渉から2年が経った今も変わらない。むしろ妥結が近いといわれる中で、その懸念は高まっているといえよう。こうした中で、2年弱で9億円もの税金を投じて交渉を進めてきたという事実は、国民からすれば納得がいかないのではないだろうか。

■もう一つの「必要経費」?―米国のロビイストに支払われている多額の費用

  実際にかかった出張旅費とは別に、日本政府はTPP交渉を進める上で、米国のロビイストに多額の契約金を支払い、「情報収集」活動を行っている。例えば2012年〜2013年末までに日本大使館がワシントンの法律会社「Akin Gump Strauss Hauer & Feld」に支払った金額は1億1834万円にも上る(註2)。ここで依頼された業務のほぼすべてが「TPP交渉」あるいは「TPA」に関する内容となっている。またブルームバーグによれば、2014年8月〜12月末までの間に、日本政府は同社に4700万円もの契約金で同様の業務を依頼している(註3)。これらを合わせれば2012年から2014年末までに、1億6534万円もの額になる。これも当然私たちの税金であるわけだが、多額の税金を交渉相手国である米国のロビイストに支払い、日本政府はどのような依頼をしているのだろうか?
実は2015年度、外務省はロビイストを雇うための予算が含まれる「対外発信費」予算を500億円増額している(註4)。ロビイストの登用はTPPだけに限らず、むしろ「歴史認識」をめぐる各国議会でのロビー活動を強化するためだという。日本政府には「広報、ロビー活動の予算が限られており、在ワシントン大使館や米国内の総領事館による発信や議員への働きかけが不十分で、議会対策が後手に回った」という反省があると報じられている。岸田文雄外相は2014年10月3日の衆院予算委員会で「さまざまなロビイストを動員してわが国の立場を説明し、努力を続けなければならない」と強調している。こうした流れの中で、歴史認識問題と同様に、TPPなどの貿易交渉に関するロビイストの登用が活発化していることは事実である。本件については国会での質問でも「情報収集」という回答のみで、詳細は明らかになっていないが(註5)、この支出についても、日本政府は明らかにすべきである。
米国では市民社会が、秘密主義への徹底的な批判を繰り広げている。TPP交渉は人々には秘密であるにもかからず、ロビイストや大企業のトップ、ウォール街のビジネスマンたちは回転ドア人事や「貿易アドバイザー制度」(政府が指名する約600人のうちほとんど財界メンバー)などを通じて自由にテキストにアクセスできることを問題視している。6月5日、米国NGO「Intellectual Property Watch(知的財産ウォッチ)」は、USTRと貿易アドバイザーとのメール通信記録を公表した(註6)。このメール記録は米国情報公開法に基づき同NGOが開示請求を行ったもので、2010〜2013年の間の400ページもの膨大な通信記録である。多くは「黒塗り」だが、それでもUSTRと財界メンバーによる「密接な関係」とTPP交渉への財界からの働きかけが読み取れる。秘密交渉である一方、一部の利益受益者には情報が与えられるという不正義、不平等に多くの人が怒っている。
日本でも、秘密交渉への批判は高まっている。今回の調査を機に、多額の出張費を使う一方で、日本政府自らが「聖域」と決めた中身が守られているのか、また国会決議で定義した「国益を守る、そうでなければ撤退」とのラインは守られているのか、十分な説明を政府に求めたい。

【註】
▼1 東京新聞2014年9月10日「TPP旅費3億5000万円 頻繁に会合 妥結見えず膨張」
▼2 米国のロビイストに関するデータベース「Influence Explorer」より。同サイトでは米国の法律に基づき報告されたロビイストのクライアント、委託業務内容、契約金、コンタクト先などの詳細情報をすべてウェブサイトで公開している。http://influenceexplorer.com/
▼3 ブルームバーグ 2015年5月21日「日本政府が米ロビイスト起用-TPA可決に向け議会に働き掛け」 http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NOOFT56TTDS601.html
▼4 産経新聞 2014年8月28日「外務省 戦略的対外発信基地「ジャパンハウス」に500億円」
▼5 日本農業新聞 2015年5月28日「民主「不愉快」 TPA法案ロビー活動報道で外務省聴取」
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=33475
▼6 http://www.ip-watch.org/2015/06/05/confidential-ustr-emails-show-close-industry-involvement-in-tpp-negotiations/


特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)
事務局長 内田聖子
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 東洋ビル3F
TEL.03-5209-3455 FAX.03-5209-3453
E-mail: kokusai@parc-jp.org HP http://www.parc-jp.org/ Twitter:http://twitter.com/parc_jp

プレスリリース全文(PDF)はこちらからダウンロードできます