PARC TOPオルタ2010年11・12月号

2010年11・12月号

  • A4版変形 56頁 800円+税
 2010年11・12月号

特集 「貧困削減」という問題!?

<本誌特集 扉より>
世界には一日一・二五ドル未満で生活する「貧困層」が約一四億人いるといわれている。その理由や状況は国や社会によって異なるが、多くの貧困層が食糧や医療、教育などへのアクセスから排除され、仕事に就けず日々の暮らしの窮乏に直面している。
「貧困削減」は、国際社会の重要課題と位置づけられ、数十年にわたる取り組みがなされてきた。そこに関わるアクターは、各国政府や国連等の国際機関、そしてNGOや社会運動等の市民社会の担い手である。貧困削減のための資金源として、各国政府は政府開発援助(ODA)を拠出することにも合意し、2000年の国連ミレニアム開発サミットの場において、貧困を削減するための「ミレニアム開発目標(MDGs)」も設定された。
しかしこうした指標やそれに基づく取り組みには、落とし穴がないだろうか。「貧困層」と一括りにされた途端、人びとの事情は捨象され、「一日○○ドル未満で生活する人口」「学校へ行っていない子ども」という量的に分類可能な塊になってしまう。そして、「貧困削減」は、個別の事情とは関係なく、その数値を「改善すること」に置き換えられてしまう。
実際に、「貧困削減」という名の下でなされる開発援助や、「外」からの働きかけによって、「貧困層」自身の生活環境が悪化し、より貧困が深刻化していくケースがある。それが「善意」に基づく行為であればあるほど、後の評価や検証は困難となっていく。さらには、経済成長を前提とする企業活動が頭打ちになった現在、新たな「市場」として企業から注目されているのが40億人の貧困層・低所得者層をターゲットにしたBOP(bottom of the pyramid:ピラミッドの底)ビジネスである。そこには、「貧困削減」の可能性と同時に、貧しい人びとが搾取的・競争的な市場原理に取り込まれていく危険もはらまれている。
「貧しい人の生活をよりよくしたい」という思いに真っ向から反対する人はいないだろう。しかしそれは、何に基づく「貧しさ」なのか、誰が決めた「貧しさ」なのか、そして何をめざした「よりよい暮らし」なのか――? さらに、「貧困削減」という名のもとに、人びとが市場にからめとられ、従来の文化や風土を手放し、新たな貧困に陥ったり、経済成長を前提とする「豊かさ」に動員されていっているとしたら――? そんな思いから、この特集を組んだ。「貧困」という問題でなく、「貧困削減」という問題として立てたのはその意図からである。この特集が、「貧しさ」と「豊かさ」、また「南」と「北」の関係を考える契機となれば幸いである。
(編集部)

  • 対談:グローバル化と「貧困削減」のトレンド
     大橋正明×浜 矩子
  • 過去二〇〇年間、人びとは貧困をどう見てきたか?
     小林誉明
  • 「貧困削減」のための開発事業が生み出す新たな貧困
     東 智美
  • MDGsの公約:臭いものにはフタをしよう?
     アヴァ・ダンログ
  • マイクロクレジットのつくり出す「羞恥の政治経済」
     @Tanglad

特別記事

  • セルジュ・ラトゥーシュ来日講演録
    −穏やかな<脱成長>の概論

  • 農地争奪の動きと市民社会の役割
    青西晴夫×松平尚也

  • コンゴ紛争とあなたのケータイ
    −米金融規制改革法の波紋
    加治知恵

  • 連載

    • 湯浅誠の反貧困日記 湯浅誠
    • 隣のガイコク人 取材・文/大月啓介(ジャーナリスト)
    • ゆらぐ親密圏−<わたし>と<わたし・たち>の間 海妻径子
    • 音楽から見る世界史 アンゴラ、民族のリズム 粟飯原文子
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