PARC TOP池上彰の世界の歩き方 第3回

池上彰の世界の歩き方



第3回 真の援助とは

 前回、ネパールの少女たちの話を取り上げました。少女たちが、村を取り抜けようとする車を止めて、通行料を払わせるという話でした。楽しそうに笑顔で自動車の通行を妨害して止める様子に、私は心を痛めたものでした。そのネパールで大地震です。
 あの子たちは、無事だったのだろうか。改めて心が塞ぎます。私が行きつけのネパール料理店で働いている従業員の中にも、地震で家族を失った人がいます。働いている人たちの故郷の実家は、ことごとく壊れてしまったそうです。日本の震災対策技術が、もっと早く導入できていれば…と思わざるをえません。
 そこで今回は、日本の援助の姿について、現地で見たエピソードを紹介しましょう。
 ベトナム戦争の歴史を現代史の本に書こうとインドシナ半島に取材に行ったときのこと。ベトナムからラオスに足を伸ばしました。実はベトナム戦争中、アメリカ軍は、南ベトナム解放戦線を支援するためのホーチミンルートを破壊するため、ベトナム国内ばかりでなく、カンボジアやラオスを通るルートも空爆していたのです。
 その結果、ラオスの農村地帯には、いまだに多数の不発弾が残っていて、田んぼで遊んでいる子どもたちがケガをする事態が起きています。そんな不発弾処理の現場を取材に行ったのです。その過程で、首都ビエンチャンで、日本のJICA(国際協力機構)の専門家に会い、援助の現場に連れて行ってもらいました。
 彼は、少数派の山岳民族であるモン族の支援をしていました。彼が現地に入った当初は、「日本人が援助に来てくれた」と歓迎されたそうです。「何を援助してくれるのだろうか」と期待が高まったのですね。
 ところが彼は、「この村で一番必要なものは何だろうか、みんなで考えてほしい」と持ち掛けたそうです。彼らは援助してもらうことだけを考えていましたから、頭の切り替えがなかなかできず、話し合いは進まなかったそうです。
 それでも結局、「学校が必要だ」ということで意見が一致しました。ところが、彼らが「学校が必要だ」と訴えても、日本から来たJICAの専門家は、動こうとしません。彼らは、一番必要なものは学校であると気づいたとたん、一刻も早く学校の校舎が欲しくなります。日本の援助など待っていられません。彼らは痺れを切らし、「えーい、待っていても、校舎はできない。自分たちで作ってしまおう」と言い出して、木材などを出し合って、校舎を建ててしまったのです。
 その校舎を見せてもらいました。手製の黒板で、教室の窓にはガラスが入っていません。教室内に電気もありません。それでも、自分たちで建てた校舎ですから、その後の補修や維持管理も自分たちで担うようになりました。
「いま一番必要なものは何か、考えてみて」という呼びかけで、彼らは必要なものに気づき、援助がなくても校舎を建ててしまったのです。これが本当の援助の仕方だ、と彼は私に説明してくれました。
 次に、この村に必要なものは何か。近くを流れる川の水を引いて、田んぼに水を入れることだ。衆議一致しました。でも、そのための技術の知識がありません。そのときになって、ようやくJICAの専門家が動き出し、灌漑用水を建設する技術を伝授したのです。こうして村人たちは、自分たちの力で灌漑用水まで手に入れました。
 開発途上国への日本の援助では、過去には井戸掘りがブームになったことがあります。水のない地域に、日本の技術で井戸を掘ってあげるのです。住民たちは喜びますが、やがて井戸が壊れても、誰も直そうとしません。日本の援助で修理してもらうのを待っているのです。これでは彼らの自立につながりません。
 そこで現在は、井戸掘りの技術を伝えながらも、彼ら自らに作ってもらうという方法が主流になっているそうです。こうすれば、完成した井戸は、「自分たちで掘った」ものです。壊れたら、自分たちで修繕。維持管理もしっかりしていきます。
 人に作ってもらったものは、完成しても人任せ。自分たちで作ったものは、自分たちで管理していく。
 これが、人間心理ですね。善意からの援助は、往々にして援助依存の人たちを作り出しかねません。援助を受ける人たちの自立につながる援助とは何か。人々が、自分たちで立ち上がる能力をつけてもらう。これが真の援助なのでしょう。
 さて、震災に襲われたネパールの人々は、どうしているのだろうか。援助をひたすら待つのか、自分たちで地震に強い町づくりに乗り出すことができるのか。これからは、それが問われるのです。


【連載 バックナンバー】
第1回 「世界」を伝えるということ
第2回 少女たちの笑顔の裏に
第3回 真の援助とは
第4回 砂漠のハエは目に集まる
第5回 空から海賊を見分ける方法とは
第6回 今後発展する国を見分ける池上流の方法とは
第7回 「海外に行きなさい」とダライ・ラマ
第8回 パリのテロの現場から



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