PARC TOP池上彰の世界の歩き方 第5回

池上彰の世界の歩き方



第5回 空から海賊を見分ける方法とは

 前回、アフリカ北東部のジブチにある難民キャンプの取材記をお伝えしました。このジブチには、実は日本の自衛隊の活動拠点があります。
 アフリカの角と呼ばれる北東アフリカのソマリア周辺海域では、2007年頃から海賊の行動が活発化しました。周辺を航行する船舶がソマリアの海賊によって襲撃されるケースが相次いだため、各国の海軍艦船が配備され、海賊の監視・取り締まりを始めます。日本の自衛隊も2009年から活動を始めました。
 海賊といいますと、ドクロのマークの旗を掲げ、積み荷を奪うイメージがありますが、ソマリアの海賊は、そのようなものではありません。人質ビジネスなのです。たとえば石油タンカーを襲撃します。海賊たちは、漁船を装った小舟で接近。目標の船に乗り移ります。現代のタンカーは高度に機械化されているため、乗員はごくわずか。少数の海賊によって、簡単に制圧されてしまいます。
 海賊たちは、そこで石油などの積み荷や乗員を人質に取り、船会社に連絡。積み荷や乗員を返してほしければ、身代金を払え、というものです。被害額は相当な金額に達していると言われています。
 自衛隊は、海上自衛隊の護衛艦が2隻、アデン湾を航行する船を護衛します。その一方、P3C哨戒機が上空から海賊船の発見に努めます。怪しい小舟を発見すると、近くにいる軍艦(自衛隊の護衛艦を含む)に連絡。出動可能な国の軍艦が、問題の舟を追跡。追い払うという算段です。私は、P3Cに同乗して、海賊船の捜査の様子を取材しました。
 この海域を航行するタンカーや貨物船は、海水を汲み上げて甲板に流しながら全速力で走っています。海賊たちが甲板に登って来られないように、という自己防衛策です。海賊船は、ドクロの旗を掲げていません。普通の漁船を装って、タンカーや貨物船に近づきます。では、上空から、どうやって海賊船らしき舟を見つけることができるのでしょうか。あなたも推理してみてください。
 ヒント。一見漁船に見えても、実際には漁船が積むはずのないものを搭載しているかどうかを上空から探すのです。それは何か。

 答えは、はしごです。漁船を装った海賊船は、タンカーや貨物船に接舷すると、はしごをかけて甲板に登るのです。通常、漁船ははしごを使うはずがないですから、舟の中にはしごが見えたら怪しい、というわけです。
 P3Cは、もともと対潜哨戒機。日本近海で、他国の潜水艦を上空から探すのが主要任務です。空からどうやって海中の潜水艦を探すか、ですか。それは、海中で音波を出すソナーという装置を上空から投下。潜水艦に当たって戻って来る音波をキャッチして、居場所を突き止めるのです。
 それに比べれば、ソマリアの海賊は潜水艦を持っていませんから、捜索は容易ですが、灼熱のアデン湾付近での任務は過酷です。
 そもそもソマリアの海賊は、漁師たちでした。なので、「漁船を装う」と書きましたが、本物の漁船を使用します。ソマリアは、長く内戦状態が続いてきました。無政府状態ですから、ソマリア近海に他国の大型漁船がやってきて、魚を大量に獲っていっても、これを防ぐことができません。このため、ソマリアの漁師たちは漁業で生計を立てることができなくなり、海賊ビジネスに手を染めることになったのです。海賊たちは、現時点では加害者ですが、元はといえば、内戦の被害者でもあります。
 ソマリアの海賊退治の抜本策は、内戦を終わらせ、政府を立て直し、自国の漁場を自国で守る力を回復させることです。それには、長い時間がかかるでしょう。でも、海賊退治は、対症療法でしかないのです。内戦が終わらなければ、難民を生み出すばかり。アデン湾近海では、日本の自衛隊やアメリカ海軍ばかりでなく、中国海軍の艦船も展開しています。どこの国も、軍艦を出してパトロールしたり、というハードな行動は得意ですが、内戦を終結させるというソフト面では立ち遅れています。
 日本の自衛隊を国際貢献の一環として派遣する。目につきやすい行動ですから、「日本も頑張っています」というアピールになるでしょうが、紛争当事者同士を集めて内戦を終結させるための話し合いをさせる、という交渉能力もまた、必要とされています。それこそ国際貢献だと思うのです。




【連載 バックナンバー】
第1回 「世界」を伝えるということ
第2回 少女たちの笑顔の裏に
第3回 真の援助とは
第4回 沙漠のハエは目に集まる
第5回 空から海賊を見分ける方法とは

第6回 今後発展する国を見分ける池上流の方法とは
第7回 「海外に行きなさい」とダライ・ラマ
第8回 パリのテロの現場から


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